1月29日、「SWSP札幌ワイルドサーモンプロジェクト 市民フォーラム2022」を開催しました。
ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
視聴者の方々から多くのご質問をお寄せいただき、時間内にすべてご回答することが難しかったため、こちらにQ&Aを公開いたします。
●SWSP活動報告「初めて?の産卵床調査体験談」 水本 寛基
Q)ギラはどのくらいの割合で川に遡上してくるのでしょうか
A)千歳川の例(佐野 1946)では、昔はサケ遡上後期群の中でも1月以降から出現し、2月にはすべてがギラであったとの報告がありますが、現在はそんなことはないようです(理由は定かではありません)。またその他の河川においては「いつごろギラが見られるようになるのか?それが何割ぐらいなのか?」すら明らかになっていません。今後こうした基礎的な情報収集から少しずつ始めて行こうと考えています。
Q)ギラというのはどこで使われる言葉なんですか?
A)過去の論文(佐野 1946)にて「ギラ(ギンケ)」という呼称が使われており、さけます研究に携わる方々は「ブナ」と区別する意味で「ギラ」と呼んでいます。ちなみにサクラマスにもギラがいるようです。
Q)8割が野生魚とのことですが、豊平川での稚魚の放流数と回帰率を教えて下さい。
A)豊平川でのサケ稚魚放流数は豊平サケ科学館のホームページに情報があります(https://salmon-museum.jp/2019/05/06/4515)。ちなみに2021年の放流数は86700尾でした。推定遡上数を産卵床数577の2倍の1154尾とし、さらにこのうちの17.5%が豊平川で放流されて回帰した4年魚の野生魚だと仮定すると、2018年の放流尾数85000尾なので回帰率は0.24%程度だと推定されます。昨年の回帰率は0.66%と例年より高かったのですが、今年は例年と同程度の水準に落ち着いたことになります。
Q)出水などで産卵床がわからなくなることはあるか。
産卵時と調査時で水位が異なっていて確認されない産卵床がある、という可能性はありますか?産卵時より水位が低くなって干上がってしまう産卵床もありえるか。
A)増水後は産卵床が不明瞭になることは多々ありますし、平常時の水量でも流速が早いところはそもそも産卵床が不明瞭であることもあります。また流量や水位の変化に伴って産卵床が水面から出ることもありました。しかし産卵床が水面から出ているとしても、砂利の中には水(河床間隙水)があることも多く、必ずしもそうした産卵床の卵が全滅するわけではありません。
●基調講演「斜里町におけるサケ・カラフトマスの自然産卵環境の保全と再生の取り組み」 森 高志(斜里町水産林務課)
Q)生物多様性の保全がブランド価値の向上につながったというお話ですが、具体的にどのようなことが起きたのか教えていただけたら幸いです。
A)今回紹介した取り組みとは別に、知床のサケのブランド価値を高める取り組みを行っています。
その際にマスコミの方や消費者の方と話をする機会が多くあるのですが、自然産卵の取り組みに多くの関心が寄せられ、各種媒体で取り上げてもらう機会が増えました。
そのような機会の一つ一つがブランド化に繋がっていくものと信じています。
Q)泥が多くて卵が死んでいた、というのは、産卵時は小砂利などの適した環境だったのが、その後の出水などで泥が被ってしまった、ということですか?
また、秋季より冬季の方が水位が低くなり、干上がってしまう産卵床もあるのでしょうか。
A)小砂利が少ない場所では発眼卵が死んでいる率が高いのですが、小砂利が多い場所でも死卵率が高い場所がありました。
そのような場所は、上流で工事が行われていたり、産卵してから調査までの間に極端な出水があったりしました。
水位が低くなり、干上がってしまう産卵床については調査していませんが、今後調べてみたいです。
ちなみに、波浪による河口閉塞で、冬期間に一時湛水した場所で調査した際は、極端に低い生残率となっていました。
Q)畑から泥が流出するほど灌水しないと思うので、畑から泥の流入に違和感を感じますが、別の要因は考えられないでしょうか?
また、産卵時に産卵床の河床材料は親魚がある程度、取り除かないのでしょうか?
つまり、産卵後に泥が堆積した可能性はないでしょうか?
そうなると、産卵期に畑から泥が流出するほどの鹹水(農作業)がないと説明できません。
もっと上流に目を向けるべきではないでしょうか?
A)産卵する際にメス親魚は通水性の良い産卵床を作りますが、その後に産卵床やその周辺に泥が堆積しているのだと思います。
陸域から泥が流入する要因は様々考えられ、表土や植生の攪乱、傾斜などにより左右されると思います。
一つの例として、水源を含めた流域の殆どが農地で、河川と農地が近い河川の調査で、極端に低い生残率を確認しました。
収穫後の畑は作付け時に比べて保水力が弱く、雨滴浸食も受けやすいことも考えられますが、産卵前に流入し一旦川河床に堆積した泥が、その後の出水で移動することもありますので、産卵後の流入だけが原因ではないと思います。
上流に目を向けるべきとのこともご指摘の通りで、広く流域を見ていきたいと思います。
Q)川の調査に参加された漁業者さんの参加後の感想を伺いたいです。地域に住んでいらっしゃる彼らにも新たな発見があるものでしょうか?
A)漁業者の経歴も様々ですが、調査に参加しているのは若手なので、好奇心旺盛な人が多いです。
魚道清掃に参加した人から「大事な取り組みだ。他の青年部員にも経験させたい。」とか、産卵調査に参加した人から「近くの川でこんなに産卵していると思わなかった」、「面白かった。もっとやりたい。」といった声を聞いています。
特に発眼卵調査では、目の前からきれいな卵が出てきたり、泥が多いと死卵が多いなど、興味を引く要素が多いです。
今後も好奇心を刺激するような調査を継続したいと思います。
Q)知床は自然遺産の地位を保つためにも,野生魚の保全が重要ではないでしょうか? 知床にとっては漁業と同等,あるいはそれ以上に重要な課題だと思っています.
A)漁業は自然の一部を利用する産業ですので、世界遺産となり環境保全や自然再生が進んだことは、漁業者にとっても良いことだったと思います。
野生魚の保全については、漁業資源の安定化のためにも大切だと明らかになりつつありますので、漁業とのバランスを考慮しながら進められていくべきことだと思います。
Q)知床が世界自然遺産に登録されるときに周辺河川の堰に魚道が整備されましたが、フンベ川はなぜ放置されていたんでしょうか?
A)フンベ川は遺産区域から外れているため、世界遺産の取り組みとしては検討対象となっていませんでした。
ただ、世界遺産区域内河川で得られたノウハウがフンベ川の魚道設置で生かされていたり、科学委員会の先生方が協力してくれたりといったメリットを受けています。
Q)可搬式魚道の耐用年数は、どれぐらいですか?
実験としては良いと思いますが、今後、もう少し耐久性の高い素材に変更してはどうでしょうか?
また、現地にて単管を汲み上げた方が良いと思いました。
参考になるか、どうかはわかりませんが、似たような取り組みがあります。http://ikasukai.web.fc2.com/index.html
A)2年使用したものはビスが抜けやすくなり、弱くなっていると感じました。
ただ、ベニヤ板は再利用できそうなので、ビスを打ち直して使ってみたいと思っています。
架台の設置については、一部を現地の地形に合わせながら組んでいくことについて、検討してみたいと思います。
淀川の取り組み、壊れたら直すという考え方が似ていて、とても興味深いです!
Q)可搬式魚道のユニットを、どの河川でも使える定型とするならば、全道で需要があると思います。
現在のように合板でその都度作るのではなく、ポリエステル樹脂やエポキシ樹脂を使って耐用年数の優れたユニットを安価に量産できれば普及すると思うのですが……。
A)設計図だけあれば、ホームセンターで買える材料だけで作成できる、というのが現在のコンセプトですが、設置や撤去の手間を考えると、耐久性のあるユニットを通年で設置しておくということも、今後ぜひ検討してみたいところです。
Q)河床低下に対する床上げはあくまで応急的なものとして考え、将来的には公と連携した根本的な原因解消が重要になるのでしょうか。
A)ご指摘の通りだと思います。河川の直線化に起因する河床低下が多いのですが、その条件の中で出来ることを考えていかなければならないと思います。
●高校生研究発表「生分解性素材の研究~鮭皮の利用の模索~」 札幌日本大学高等学校
Q)革の硬さを取り除くために、動物の革などと同様に樟脳などでなめしてみてはいかがでしょうか。
A)樟脳を手に入れてみることと、樟脳の成分についても勉強してみます。
Q)硬すぎる繊維なら細く引き裂いて布状に織ってみるのもよいかもしれません。
A) 上記の作業や、ポリデントでのたんぱく除去などをやってみつつ、繊維状にすることも試してみたいと思います。
●高校生研究発表「真駒内川の湧水とサケの産卵床環境についての調査」 市立札幌藻岩高等学校
Q)結果の図を拝見させていただいたところ、水温の高い地点(赤い点)が左岸側に偏っているように見えました。真駒内川の左岸と右岸で環境の違いのようなものはありましたでしょうか。
A)左側の写真(公園橋)に関しては、近くにさけ科学館があり、下水(飼育排水)がしみだしている可能性があるとさけ科学館の中村さんがおっしゃっていたので、それが関係しているかもしれません。それ以上のことはまだはっきりとは分かりません。(藻岩高校 浦口)
6.5℃とある赤い点のすぐ左側には、さけ科学館からの飼育水が流れでる放流水路があります。さけ科学館の飼育水は地下水で、河川水温より高いので、放流水路からの距離から、中村さんはそのように考えたのだと思います。その上流の橋の近くには、6.3℃を観測した場所があります。ここは上流側に離れていますし、さけ科学館の水というのは影響していないと思います。また、五輪小橋の上流側には、右岸側に5.1℃の地点がありますが、過去にサケが遡上していた頃に産卵床があり、水温を測ったところそのときも右岸側に高い水温の河床がありました。真駒内周辺は、地下水位が河床よりも高く、量は少ないですが、地下水が湧き出る場所があると思います。右岸と左岸の環境の違いについては、左岸側に真駒内柏丘があり、右岸側よりも比高が高いので、岩盤の位置から左岸側の方が地下水が出やすいのかもしれません。(さけ科学館 有賀)
Q)さけ科学館付近の河川環境の欠陥として、五輪大橋付近の岩盤露出部があると思います。合流部の下流で豊平川側の河道に入ってしまうとサケにとってはかなり厳しいと思います。今回の調査で分かったように、真駒内川にはサケにとって理想的な環境が整っているので、豊平川側の河床状況を改善することと並行すればサケにとってより快適な川をつくれるかもしれませんね。
A)私は豊平川側の実態がわかりませんが、五輪小橋の下の護岸工事箇所で水草や植物を植えるなどのより自然に近い環境にする工夫ができるのではないかなと思います。(藻岩高校 浦口)
同意いたします。さけ科学館付近の豊平川の河床低下が改善されない限り、付近の支流への遡上障害は解決されません。真駒内川はサケが産卵できる貴重な川ですし、対岸を流れる北の沢川は固有な遺伝的特徴を持つサクラマスが生息していた川ですが、こちらも豊平川との合流点で落差が生じ遡上が困難になってきています。豊平川の上流にはダムが複数あり、礫の供給が期待できないので、帯工を設置したり、人工的に礫を投入するなどの対策を講じる必要があると思います。(さけ科学館 中村)
多くのご質問等をお寄せいただき、誠にありがとうございました!
当日の録画をYoutubeにアップしていますので、当日ご覧になれなかった方も是非ご視聴下さい。